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「あれはねえよな」世界のキタノが1度だけ怒った助演男優賞落選…大杉漣さんの思い出

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「世界のキタノ」こと北野武監督(71)は各映画賞での自分の当落などにほとんど頓着しない。私が映画担当記者だった1997年、「HANA―BI」でベネチア映画祭最高賞のレオーネドール(金獅子賞)に輝いた時もベネチア・リド島のホテルの部屋で淡々。「まあ、うれしいのはうれしいけどよ」と、はにかんだ笑顔を見せただけだった。


 そんな北野監督が唯一、映画賞に関して怒りの表情を浮かべ、「あれはねえよな」と隣にいた私につぶやいたことがあった。


 それは99年3月12日、東京・グランドプリンスホテル新高輪で行われた「第22回日本アカデミー賞」授賞式でのことだった。

 

 「HANA―BI」はベネチア頂点の余波もあり、大ヒット。98年の「第23回報知映画賞」でも作品賞、監督賞、助演男優賞の3冠に輝くなど、賞レースも席巻。

まさにダントツの評価で助演男優賞に輝いたのが、21日に急死した大杉漣さんだった。


 大杉さんが「HANA―BI」で演じたのが、主人公の悪徳刑事・西(ビートたけし)の心優しい同僚・堀部。凶悪犯に銃撃されて下半身が不自由になり、車椅子の生活となったことから人生が一変。退職と同時に妻子にも出て行かれ、天涯孤独の身に。西に贈られた画材セットで絵を描くことに生きがいを見い出すが、いつしか自死を考え出すという役柄だった。


 大杉さんは堀部という人生に絶望しながらも生きていくしかない男をナイーブに、愚直に演じ切った。そこには、93年の北野監督の出世作ソナチネ」のオーディションに遅刻したにも関わらず合格。以来、北野作品に欠かせない名脇役となった俳優だけが持つ、監督との絶対的な信頼関係があった。


 当時、1年で17本の映画に出演。名脇役として存在感を発揮し始めていた大杉さんは報知映画賞の受賞インタビューで「僕はインディペンディント系の作品出演が多いから、報知さんに何かエールを送られたようですごくうれしいな。励みになるよ」と、はにかんだ笑顔で答えてくれた。


 カメラマンの「煙草をくわえて目線を下さい」という要求に何度も煙草に火を付けては生真面目に答え続ける。


 その後、数か月。ブルーリボン賞など、ほとんどの助演男優賞に輝き続けた大杉さんを毎日のように取材した。「漣という芸名は(弦楽器奏者の)高田漣さんから取ったんだけど、実は漣(さざなみ)という商品名のコンドームもあって…。それも頭にあったんだよねえ」とポツリ。こわもての外見とは裏腹なソフトで優しい人柄は、どんな取材の場でも変わらなかった。


 そして迎えた日本アカデミー賞当日、北野監督、大杉さん、森昌行プロデューサー始め「HANA―BI」軍団も各賞にノミネートされ、有力な受賞候補として会場入りした。


 しかし、最優秀作品賞は「愛を乞うひと」。最優秀監督賞も同作の平山秀幸監督。最優秀主演男優賞でやっと、「HANA―BI」と同年のカンヌ映画祭で「うなぎ」により最高賞のパルムドールに輝いた今村昌平監督作品「カンゾー先生」の柄本明の名前が読み上げられる意外な展開に。

当時から映画会社各社の談合的な部分もささやかれていた同賞だったが、世界三大映画祭の最高賞に輝いた巨匠2人の作品が次々と受賞を逃す意外な展開に私はあぜんとしてしまった。


 「何か変ですね」―。変な興奮の仕方をする私とは真逆に取材対象の北野監督や大杉さんは冷静そのもの。各受賞者に淡々と笑顔で拍手を送っていた。
 そんな「世界のキタノ」が、その日ただ1度だけ顔色を変えたのが、最優秀助演男優賞の受賞者として大杉さんではなく、「踊る大捜査線」のいかりや長介さんの名前が呼ばれた瞬間だった。


 隣で見ていても、明らかに落胆した様子の北野監督に「大杉さんは“鉄板”(の受賞)だと思いましたが?」と話しかけた時の答えが「あれはねえよな」だったのだ。


 決して声こそ荒げることはなかった。しかし、自作で淡々とした中に凄みを感じさせる名演を見せてくれた大杉さんが受賞を逃したことに対する静かな怒りを、北野番だった私は確かに感じ取った。
 その後も北野監督と大杉さんの二人三脚は昨年10月公開の「アウトレイジ最終章」まで四半世紀に渡って続いた。今、大杉さん急死の報を受けた北野監督のショック、喪失感はどれほどのものだろうと、どうしても考えてしまう。


 寡黙な世界的監督と人柄抜群の渋いバイプレイヤーの奇跡的な出会いと成功―。映画担当として、その一番いい時を追いかけられた幸せを今、じっとかみしめる。それと同時に思うのは人生の残酷さ。今、名脇役として旬の時を迎えていた大杉さん急死の報を聞いて、体の震えが止まらない自分がいる。